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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)474号 判決

主文

原判決中控訴人等敗訴部分を取消す。

被控訴人の本訴請求を棄却する。

反訴にもとずき、被控訴人は控訴人等に対し別紙目録記載の土地につき被控訴人のためになされた大阪法務局中野出張所昭和三四年一月一〇日受付第四一三号所有権移転請求権保全仮登記竝びに同出張所同年六月八日受付第一六、三四六号所有権移転登記の各抹消登記手続をなせ。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じ第一、二審とも被控訴人の負担とし、附帯控訴費用は、附帯控訴人(被控訴人)の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一乃至第三項第五項前段同旨の、附帯控訴につき主文第四項第五項後段同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との、附帯控訴として、「原判決中、被控訴人敗訴部分を取消す。附帯被控訴人等(控訴人等)は附帯控訴人(被控訴人)に対し金一、九七二、一八〇円及び之に対する昭和四二年一〇月一日以降原判決主文第一項記載の仮登記及び右仮登記移転の附記登記の各抹消登記手続完了に至る迄一ケ月三六、八〇〇円の割合による金員を支払え。附帯控訴費用は、附帯被控訴人等(控訴人等)の負担とする。」との各判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は以下に附加訂正するほか原判決事実摘示記載と同一であるから之を引用する。

(控訴人等の主張)

訴外桜井敏夫から受けることになつた補償金五〇〇万円について桜井哲治郎が直ちに、その支払を受けなかつたのは、当時敏夫において債務の弁済その他急を要する出費が多かつたためであつて、哲治郎としては右補償金の支払を猶予するかわりに、将来の右補償金の支払の確保のために本件仮登記上の権利を譲受けたものである。哲治郎は荒木に対し担保として差入れられていた本件土地を含む土地について将来敏夫に有利に処分する機会を与え、最終的に敏夫から右補償金の弁済を受ければよいと云う考えであつたから、右補償金の支払方法支払時期について約束がなかつたのも叔父甥の間柄にある仲としては、むしろ当然と云うべきである。

原審で荒木に対する債務の弁済は哲治郎が訴外敏夫より受取るべき補償金を以て敏夫のため右債務を肩替りして支払うこととしその債務を四七〇万三、二〇〇円と確定し全額弁済し、右債務の担保となつていた本件土地等の仮登記上の地位を譲受けその旨移転の附記登記を受けたとの主張は右の通り訂正する。

(被控訴人の主張)

本件仮登記は哲治郎と敏夫が通謀してなした架空の登記であるところ、控訴人等は右事実を知りながら被控訴人の右仮登記の抹消登記の請求を故意に妨害していて、右仮登記が抹消されない限り被控訴人は本件土地を担保として金融を受けることも、転売、賃貸をすることも事実上不可能であり、若し被控訴人において、本件土地を利用すれば土地賃料の数倍以上の収益がある筈である。このことは控訴人の予見することができる特別事情による損害であるから、附帯控訴を以て原審主張通り損害金の内金として、本件土地賃料相当額の損害金の支払を求める。

(証拠関係)(省略)

理由

一、別紙目録記載土地(以下本件土地と略称する)につき、(一)大阪法務局中野出張所昭和三三年二月一一日受付第二七六一号を以て訴外荒木久一のため同年二月五日売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記が(二)同出張所同年七月九日受付第一八、六四一号を以て桜井哲治郎のため同年七月七日権利譲渡を原因とする右仮登記移転の附記登記が、(三)同出張所昭和三四年一月一〇日受付第四一三号を以て被控訴人のため売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記が、(四)同出張所同年六月八日受付第一六、三四六号を以て、被控訴人のため売買を原因とする所有権移転登記が、孰れもなされていることは当事者間に争がない。

二、そこで前記(二)の仮登記移転の附記登記の登記原因が実体に合致するかどうかについて判断する。

成立に争のない甲第二号証、第二〇、第二一号証、第二五、第二六号証、第三四乃至第三六号証、第四五、第四六号証第四八号証、乙第一号証第八号証の一、原審証人桜井敏夫の証言により成立の真正を認め得る乙第二、第三号証の各一、二と原、当審証人桜井敏夫(原審は第一、二回)原審証人荒木久一、同荒木正起同桜井弘一の各証言(但し、原審証人荒木正起同桜井敏夫同桜井弘一の各証言中後記認定に牴触する部分を除く)によれば、

(一)訴外桜井敏夫は昭和三一年初頃訴外荒木久一より数回にわたり元本合計約五〇〇万円を借受け、右債務を担保するためその所有にかかる大阪市住吉区南加賀屋町二〇番の一の本件宅地、東加賀屋町三丁目一五番の一宅地五六四坪四合一勺、同所三一番地宅地一〇八坪六合、同所三六番の三宅地九二坪四合三勺、同所四五番道路八畝一六歩等の土地に売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をなしたこと、

(二)しかるに、右債務は同三三年二月二八日現在で元利金合計五六〇万円余となり、右敏夫は訴外荒木より再三その支払を催促されていただけでなく、自己が家督相続をした莫大な資産を事業に濫費し失敗を重ね多額の負債をかかえ、後記緑木町所在の所有地が競売寸前の状況になり、債務の返済に苦慮していたこと、そこで国光製鋼株式会社に賃貸していた同市住吉区緑木町二丁目八番の一、雑種地七、九一三坪二四を右訴外会社に売却し債務の整理に充てる緊急の必要に迫られて右会社に買取方を求めたが、訴外会社は右土地と隣接し且、前記八番の一と一括して賃借していた敏夫の叔父桜井哲治郎所有同所九番地雑種地三、六〇三坪〇六をも併せ買受けることを条件として交渉に臨んだため、敏夫の債務整理に協力するためには哲治郎は自ら処分を望んでいない九番の土地を訴外会社に売却せざるを得ないことになり、種々折衝の結果同三三年六月二七日敏夫所有の八番の一の土地は坪当り四、〇〇〇円で売買契約が成立し、之に伴つて同年七月一四日前記哲治郎所有雑種地についても代金総額二、〇一七万七、一三六円(坪当り五、六〇〇円)但し右契約と同時に内金一〇〇万円を支払い残金は同三五年五月三〇日その所有権移転登記と同時に支払う旨の売買契約が成立したこと、右訴外会社と哲治郎との売買契約は当初は前記のように哲治郎に売却の意思がなく、その後交渉の過程で哲治郎は坪当り少くとも七、〇〇〇円を主張し坪当り四、〇〇〇円の価格に難色を示していたが、敏夫からの懇請もあつて訴外敏夫の窮境を救うため同年五月二九日一応坪当り四、〇〇〇円を応諾したものの更に、交渉を重ねた結果、坪当り四、〇〇〇円に年二割の利息を附した坪当り五、六〇〇円を二年後の価格とし、之に従つて契約時支払う内金一〇〇万円を除く残金は同三五年五月三〇日に支払うこととし、前記契約成立に至つたもので、訴外会社が残金一、九一七万七、一三六円を同三五年五月三〇日弁済提供したところ、哲治郎は尚も右契約条件に不満を示し、その受領を留保し、同三六年一月二四日に至つて漸く従前の価格に更に一〇〇万円上積して売買契約が履行されたこと、

(三)右の如く哲治郎は、処分の意思がない右雑種地を不本意な価格で処分せざるを得ないことに立至つたため、敏夫は哲治郎が訴外会社と折衝中、敏夫は哲治郎主張の価格との差額即ち坪当り三〇〇〇円の価格差を補償することを申出て、その補償額を一、〇〇〇万円としその支払として訴外敏夫所有の大阪市住吉区中加賀屋町三丁目三二番地宅地九二一坪九六を五〇〇万円と評価し無償譲渡し、且現金五〇〇万円を提供することが約された結果前記契約が成立をみるに至つたもので、右宅地については同三三年八月一三日哲治郎に所有権移転登記がなされ履行を終つたこと、

(四)敏夫が訴外会社から受領した土地売却代金三、一六五万二、九六〇円は、それより抵当権等を抹消するために被担保債権の弁済をなし二、〇二九万九、七九〇円が残つたが、右残金は従前敏夫の後見人であつた訴外哲治郎が之を管理することになり、直に残金を訴外協和銀行住吉支店の哲治郎名義当座預金口座に入金し、哲治郎は敏夫のため右預金を以て債務の整理を代行し訴外荒木に対する前記五六〇万円余の債務についても同三三年七月一日之を四七〇万三、二〇〇円に減額して貰つて右預金中から全額支払を了しその際右荒木より本件土地ほかの仮登記の抹消登記手続に必要な権利証、印鑑証明書白紙委任状等の交付を受けたこと、

(五)ところが敏夫が哲治郎に対し補償として提供することを約した五〇〇万円については、債務整理に意外の出費を要する事態が生じ、直ちに、支払をなすときは、債務整理に支障を来す虞が生じたため、敏夫はその所有する他の不動産の売却ができればその代金を以て支払に充てることを予定し、それ迄取敢えず被担保債権の弁済を了した前記荒木に担保として提供していた本件土地を含む五筆の土地を五〇〇万円の補償金支払の担保に供すること、敏夫に於て右五〇〇万円の支払ができないときは、本件土地の所有権を哲治郎に移し、その支払に充てることに哲治郎の承諾をえたところ、そのためには、哲治郎のために新に担保権を設定すべきであるのに、被担保債権を弁済した際荒木から交付を受けていた前記印鑑証明書白紙委任状等を利用して同三三年七月九日と同三四年一月二二日の二回にわたり同三三年七月五日哲治郎に対し仮登記上の権利の譲渡があつたものとして仮登記移転の附記登記をなしたこと、本件土地に対する冒頭記載(二)の仮登記は以上の経緯によりなされたものであること、

が認められる、右認定に牴触し、荒木に弁済した金員は哲治郎により立替えられたものであるとする趣旨の、原審証人桜井敏夫の証言は当審における同証人の証言と対比し採用できないし、又荒木より哲治郎に対し仮登記上の権利の譲渡がなされたとする右証人の証言及び原審証人荒木正起の証言は、原審証人荒木久一の証言と対照するときは採ることができない。

三、他方原審証人桜井敏夫(第一回)同釜口勇の各証言により成立の真正を認め得る甲第三、第四、第八、第九号証、原審証人桜井敏夫(第一、二回但し一部)同釜口勇の証言原審における被控訴本人尋問の結果によると、敏夫は前記緑木町の土地を国光製鋼に売却した直後の同三三年一〇月頃更に金策の必要が生じたが、哲治郎に対してはその事情を明かにしにくかつたため釜口勇に金策を依頼し、同人は敏夫の叔父にあたる被控訴人に対し敏夫のため金融を申込み、被控訴人は後記土地を敏夫が担保として提供することを条件に、之を承諾し、同三三年一〇月二四日敏夫に対し一五〇万円を弁済期同三四年四月三〇日、利息年六分と定め貸与し、若し弁済期に弁済しないときは大阪市住吉区緑木町二丁目八番地の六、雑種地七畝六歩及び本件土地を代物弁済として被控訴人に対し所有権移転をすることを約したこと、その際本件土地については前記の通り哲治郎を権利者とする仮登記が存することが判明したが、敏夫が右の仮登記は訴外敏夫の債権者より強制執行を受ける虞があるから財産保全の目的で仮登記上の権利の譲渡があつたものと仮装してなされたものであり何時でも抹消できるものであると虚偽の説明をしたため被控訴人も之を信じ前記のように金融に応じたものであるが、その後弁済期が同三三年一二月末日と変更され、弁済期を過ぎても弁済がなされなかつたため被控訴人は約旨に従つて同三四年一月一〇日冒頭記載の(三)の仮登記を経由し、その後同年六月二日に至り敏夫から本件土地を債務の弁済にかえて提供する旨の申出があり、被控訴人も之を諒承し同年六月八日冒頭記載(四)の本登記がなされたことが認められる。右認定に反する前記桜井敏夫の証言は前記被控訴本人尋問の結果と対比し措信できない。また敏夫が被控訴人に対し、哲治郎を権利者とする仮登記は仮装のもので何時にても抹消できる旨の虚偽の説明をしたことは、敏夫は当時前認定のように金策に困つていた際であつたし、将来何時かは本件土地以外の所有不動産を処分して哲治郎に対する五〇〇万円の支払をする積りであつたため、窮時の際の一時の方便としてしたものであることが、原(第一、二回)当審での証人桜井敏夫の証言から推認しうる。

四、更にまた成立に争のない甲第四二、第四九、第五〇号証によれば、敏夫所有不動産中には昭和三三年八月頃哲治郎を権利者とし売買予約を原因とする仮登記がなされ、仮登記として既に抹消されているものも存することが窺え、尚原審証人桜井敏夫の証言により成立の真正を認め得る甲第五、第六号証によれば、哲治郎自身本件土地の哲治郎名義の仮登記を抹消することを被控訴人に約する旨の書面を差入れ、又敏夫は右仮登記が架空の仮登記であることを認める旨の覚書を被控訴人に交付したことも明かである。

しかしながら前者の書面はその文言からみても必ずしも仮登記が仮装のものであることを認めた趣旨とは解されないばかりか、原審証人釜口勇、同桜井弘一の証言によれば、被控訴人は再三哲治郎名義の仮登記は仮装のものであると主張し強硬にその抹消を迫つていたが、年もおし迫つた同三四年一二月三〇日哲治郎方で長時間感情をあらわにしてその抹消を求め、哲治郎の息子である控訴人弘一と口論になる状況であつたので、哲治郎も事態を収拾するために不本意ながら右の書面を作成した事情が認められるし、後者の覚書については原審証人桜井敏夫の証言(第二回)によると、敏夫が検察官の指示に従つて大阪地方検察庁に出頭した際、裁判所構内で被控訴人と出会い被控訴人から右覚書に署名捺印することを強く迫られ之に応じない限り帰宅させないような態度に出られたため、被控訴人から金員借受に際し哲治郎名義仮登記が架空のものであると虚偽の事実を告げた経緯もあり、已むを得ず署名捺印するに至つたことが認められ、右認定の被控訴人の強迫的態度は被控訴人の原審証人桜井弘一、原当審証人桜井敏夫に対する尋問の態度からも窺うに難くはない。してみれば甲第五、第六号証は哲治郎或は敏夫の真意を伝えたものとは認め難いから、これらを以つて哲治郎の仮登記が仮装のものであるとする証拠とすることはできない。

そして哲治郎が自己所有の前記土地を国光製鋼に売却せざるを得なかつた前記の経緯、敏夫は幼時父を失い哲治郎が後見人として長年にわたり敏夫の財産管理その他の面倒を見て来たこと、哲治郎敏夫間に訴訟その他紛争が起つた事実が認められないのに反し、敏夫の叔父である桜井利三郎及び被控訴人との間では成立に争のない甲第四〇号証乙第八号証の一〇により告訴事件、民事訴訟事件が起つていることが認められることと対比するときは二で認定した通り本件仮登記は仮装のものではないものと認むべきであり、右認定に牴触する原審証人田口富子、原、当審証人桜井利三郎の各証言原審における被控訴人本人尋問の結果はたやすく採用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

五、ところで本件土地についての訴外哲治郎への仮登記移転の付記登記は前認定の経緯でなされたものであるから、それは権利の現状に符合するが権利変動の過程に符合しない登記と云うことができる。このような登記の効力について考えると、甲がその所有不動産を担保として乙から金融を得て右不動産に売買予約或は代物弁済予約を原因とする仮登記がなされた後甲が乙に債務を弁済し乙から仮登記抹消に必要な白紙委任状印鑑証明書等の書類の交付を受けた場合、甲が更に丙に対する債務の担保として右不動産上に前同様の仮登記をするにあたり、乙を権利者とする仮登記の抹消登記をするのを省略し、右書類を冒用し、乙より丙に対し仮登記上の地位の移転があつたものとして仮登記移転の附記登記をした場合でも、その登記は乙が抹消登記をする限度において甲に登記申請の代理権を与えたことに基くものであり、結局乙は法律関係から離脱した結果になるし、而も丙を権利者とする仮登記移転の附記登記をしたことは、実体上の権利関係と一致するのであるから、このような登記を以て偽造申請書による登記と同視し、之を無効とすることはできないものと解するのが相当である。従つて之と同類型の経過でなされた哲治郎への仮登記の移転の附記登記は有効と云うべきである。

六、以上の次第であるから本件仮登記が架空であるとしてその抹消を求める被控訴人の請求は理由がない。

七、次に当審での証人桜井敏夫の証言によると、敏夫はその後哲治郎に支払うべき補償金五〇〇万円の金策ができないところから、その支払に代え前記担保に供した土地二筆を哲治郎に一筆を同人の息子である控訴人桜井弘一に所有権を移転し、その旨の登記を了すると共に、本件土地についてもその支払に代え昭和三四年一二月四日頃哲治郎に所有権を移転し、移転登記に必要な書類を同人に交付したことが認められる。

そうすると哲治郎は昭和三四年一二月四日頃本件土地の所有権を取得し、本件仮登記に基く所有権移転の本登記手続をなしうるわけであつて、哲治郎の右仮登記に後れてなされた被控訴人の冒頭一、で認定した(三)の仮登記及びこれに基く同(四)の所有権移転登記は哲治郎に対抗しえないものであつて、被控訴人は哲治郎の右本登記手続を承諾する義務があり、引いては自己の右各登記を抹消すべきである。

しかして右哲治郎が昭和四〇年六月二一日死亡し、控訴人らが相続により哲治郎の権利義務を承継したことは当事者間に争がないから、控訴人等が被控訴人に対し前記(三)(四)の各登記の抹消登記手続を求める反訴請求は正当として認容すべきである。

八、前記認定のように本件土地について哲治郎が所有権を取得したのは昭和三四年一二月四日頃であつて、その所有権移転請求権保全の仮登記が昭和三三年二月一一日になされているけれども、右仮登記は単にそれに基く所有権移転の本登記の順位を保全する不動産登記法上の効力を有するに過ぎないものであるから、哲治郎の本件土地の所有権取得が右仮登記の日迄遡るものではない。従つて被控訴人が昭和三四年六月二日代物弁済として本件土地所有権の提供を受けてから哲治郎が所有権を取得する迄の間は、被控訴人が本件土地の所有権者としてその権利を行使し得たのであつて、これを侵害したものに対しその賠償を求めうることは言うまでもないが、哲治郎の本件仮登記が叙上説示の通り正当である以上、これが存するがために被控訴人に於て本件土地の利用が妨げられたとしても止むを得ないものであることは縷説を要しないところであり、他に哲治郎竝に控訴人らが被控訴人の右所有権を侵害したことを認めるに足る証拠もなく、哲治郎が本件土地の所有権を取得して以後は被控訴人は取得登記を以つて対抗しえない結果その所有権を哲治郎竝に控訴人らに主張することを得ないのであるから、控訴人が本件土地の所有権を有することを前提とする控訴人の損害賠償請求は、この点に於てすでに認容するに由がない。

九、以上の通りであるから、被控訴人の本訴請求のうち金員支払を請求する部分を除いて之を認容し控訴人等の反訴請求を棄却した原判決は失当であるから、原判決中控訴人等敗訴部分を取消し、被控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人の附帯控訴を棄却すべく、控訴人等の反訴に基いて主文第二項の通り被控訴人に抹消登記手続を命ずることとし、訴訟費用附帯控訴費用については民事訴訟法第九五条第九六条第八九条を適用して主文の通り判決する。

別紙不動産目録は一審判決と同一につき省略

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